大判例

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札幌高等裁判所函館支部 昭和27年(う)44号 判決

原判決は、被告人が女給希望の山本光子外七名の者を小樽市で喫茶店、料理店を経営中と称する村上朝枝なる者に引合せたことは認められるけれども、被告人の右所為が営利の目的を以て有料な職業紹介事業を営んだものであることの証明がないと説示して、被告人を無罪としたことは所論のとおりである。

原審で取調べた司法警察員作成村上朝枝の第一回供述調書、同被告人の第一回供述調書、検察事務官作成被告人の供述調書の供述記載によると、被告人は昭和二十六年八月初め頃、義妹の中川千代江という者から、同人が平素小樽市で淫売屋を経営している村上朝枝の世話になつているから、右村上方に稼ぐ女の子を世話してやつてくれと頼まれ、且つその世話をしてやれば相当の御礼は貰えるのだからと言われていたところ、同年同月六日頃村上朝枝の使前田三平(赤尾ともいう)の来場を受け同人からも御礼は必ずするから村上方で稼ぐ女を世話してくれと頼まれたので、被告人は町内で知合の菊地キヨ、伊藤チヨ、沢田キワに渡りをつけ、これらの者の手で右稼働を希望する山本光子、米満幸、吉田文子、亀田トヨ、古沢ユリ子、佐々木リツ、泉ツヨノ、本間キエの八名の若い女を揃えいたところえ、同月十五日頃村上朝枝が前田三平を同伴して森町(被告人の居住の地)に来たので、同日及びその翌日に亘り、村上に対し右八名をいずれも同人方で醜業に就かしめる為めの斡旋を為し、その際も村上のほか前田からも世話料は来る十八日迄にあげるからと言われ、これを当てにしているうちに警察の取調をうけることとなつた一連の事実が現われている。右事実を通じて観れば被告人の山本光子外七名の女の子を醜業につかせるために前田初枝に斡旋したことの動機は前叙のようにその義妹から頼まれたことにあるにしても、村上からその斡旋に対する世話料を貰う約束ができていたものであることが認められるから、それが報酬に関係なく行われたものといわれないことは検察官の論旨において指摘される通りである。しかし本件起訴状に記載された訴因としては、被告人の本件行為をもつて「有料の職業紹介事業を営んだ」というのであつて、原審で取調べた証拠に現われている事実は、前叙のように被告人は山本光子外七名の者を村上朝枝に斡旋したがその斡旋は回を重ねているのではなく、村上が森町に来た際に一緒に紹介しているのであつて、しかもこれが、もともと、義妹の中川千代江から頼まれてやつたことであつて見れば、右八名の女を紹介した事実を目して職業紹介の業を営んだとはいわれないし、ほかに原審で取調べた証拠では被告人が反覆継続して紹介の事業を行つたと認められる点が見られないから、原審が本件起訴状に掲げられた訴因についてその証明がないものとして無罪の判決をしたのは、原審が右訴因に拘束される限りにおいては、証拠の上から右のような結論に至るのであるから、この点についての検察官の事実誤認の論旨はその理由がないといわなければならない。

控訴趣意第二点について

記録並に原審で取調べた証拠を取調べると、前段で叙述したとおり被告人が山本光子外七名の女の子を、淫売を営む村上朝枝に対し淫売婦として就労の斡旋した事実が濃厚に現われている。そして起訴状の記載によればこの事実はむしろ本件公訴事実の全貌であることが明かである。原審審理の経過に徴すると本件公訴事実中検察官の明示した前記の訴因が証明されなかつたとしても、公訴事実に現われている被告人の行為が、公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行つたものとして、職業紹介法第六十三条第二号に該当する犯罪事実を認め得られる大なる可能性の存することが見られるのである。このような場合においては、原審としてはその訴訟指揮権を行使して、検察官に対し訴因、罰条の追加又は変更を命じ被告人に防禦の機会を与え、審理を尽すのがその訴訟指揮権を正しく行使する所以であると称せられる。しかるに原審はかかる措置に出ないで弁論を終結し、その訴訟指揮権を適正に行使しなかつたことは、訴訟手続の法令違反であり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄されなければならない。

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